とことわのその ― 獣と絡まり蔦が這い ―【加筆修正版更新中】
躊躇いながら舌を出すと、もっと出して、と囁かれた。

舌を出す。ただそれだけのことなのに鼓動が増していく。
繋いだ指から、邑木さんにその音が伝わってしまわないか怖くなる。

「きれいな色。それに長くて、少し先が尖って、きれいなかたち」

「む、邑木さんはわたしのこと、なんでも褒めればいいと思ってるっ」

子どもが親をはねつけるように言い、わたしは俯いた。

唇も手も、耳までも。
すべてがこの(ひと)で染められてしまいそうで、そうするしかなかった。

「邑木さんって呼ばれるのも嫌いじゃないけど、こういうときは名前で呼んでもらえないかな」

「名前?」

啓吾(けいご)

そういえば邑木さんの名前をちゃんと覚えていなかった。
三文字の名前で、最後に「ご」がついた気がするな、くらいにしか覚えていなかった。
どういう字だろう。

「……けいご」

はじめて口にしたその名前に、引っ張られるように顔を上げた。
邑木さんは夜の海のように微笑む。

「もう一度、舌だして。恋人の名前を忘れてたお詫びとして」

わたしはもう一度、舌をだした。
視線がせわしなく泳いでしまい、ちゃんとこっち見て、と邑木さんが言う。
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