とことわのその ― 獣と絡まり蔦が這い ―【加筆修正版更新中】
駅前のコーヒー屋さんでコーヒー豆とキャラメルマキアートを買った。

久しぶりに飲んだキャラメルマキアートはフォームがふわふわして、上唇に白い髭をつくった。
指先で拭いながら、あの(ひと)の言葉を思い出す。



――由紀ちゃんの、その口元にあるほくろ、すごくいい。
そう、その上唇の横の。



どうしてあの(ひと)は余計なことを言うのだろう。
鏡を見ても、唇に触れても、思い出してしまう。



階段を降りていくと、バーの扉は開いていた。
モップを手にした康くんが、「お。来たか」と顔を上げ、カウンターでグラスを磨く波多野さんが微笑む。

わたしはバーカウンターに座り、泊めてもらったことへのお礼をしっかりと伝え、邑木さんとの仲直りの報告をさらっとした。
波多野さんはまるで自分のことのようによろこび、クリームパンのような手でコーヒー豆を受け取ってくれた。

康くんがいつだったか褒めちぎっていた、やさしくてふかふかのあたたかい手。
邑木さんの手と、どちらがあたたかいだろう。
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