とことわのその ― 獣と絡まり蔦が這い ―【加筆修正版更新中】
経験値の違いだろうか。
それとも相性のようなものだろうか。

ひーくんとは得られなかった、脳天がスパークするような、突き抜けるような感覚。
ふわっと浮いて、魂が飛んでいってしまうような浮遊感。


兎にも角にも、わたしは骨抜きにされてしまった。
認めたくはないけれど、それは紛れもない事実だった。

考えてみれば、男性向けにだって女性向けにだって風俗はある。
つまりそこに感情がなくたって、得られるものは得られるということだろうか。


人間の躰は便利なのか、不実なのか、よくわからない。


「由紀、それ食べたらさっさと帰れよ」

「ひっどい」

「今日は混むんだよ」

康くんはそう言い捨て、表の看板を出しに行った。

そうだ。今日は金曜日だ。
気がつけばわたしの曜日感覚は薄れてしまっていた。
前は毎日毎日、穴の開くほどカレンダーを見つめていたのに。

途端に肩身が狭くなり、急いでアイスをぱくつく。
だけど波多野さんは、ゆっくりでいいんだよ、とあたたかい烏龍茶を出してくれた。

「女の子は躰を冷やしたらよくないからね」

波多野さんがモテるのは、きっとこういうところ。
肩がふわりとほどけていく。
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