とことわのその ― 獣と絡まり蔦が這い ―【加筆修正版更新中】
「俺、ギムレット。由紀ちゃんはなに飲む?」

「わたしは今日は」

「同じでいいかな。康、ギムレット二つにして」

勝手に頼まれてしまった。
多分こいつはろくな奴じゃない。

「いや、こいつ今日は飲まないって言ってるから」

すっかり元の顔色に戻った康くんがやんわりと制する。

「お願い、ちょっとつき合ってよ。由紀ちゃん、俺らなんかより酒強いって康から聞いたよ。
きれいで酒が強いなんて、いいよね」

「だから、こいつ今日は飲まないんだって」

「いいですよ、少しなら。でもわたしの分はお兄さんが払ってくださいね」

康くんの言葉を遮り、わたしはきっぱりと告げた。

「いいよいいよ。ぜんぜん出す。お腹は? なんか食べる?」

「アヒージョとサーモンが食べたいです。あとバッファローウィング」

「由紀ちゃん、細いわりに食べるんだね」

ほっとけ。
わたしはよそ行きの笑顔を男に返す。

場の空気を壊したくはない。
康くんの友達ということなら少しだけつき合ってやろう。
なんなら売り上げに貢献しよう。

胃袋も肝臓もわたしは強いのだ。
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