とことわのその ― 獣と絡まり蔦が這い ―【加筆修正版更新中】
「由紀」

康くんが眉を寄せた。
わたしの考えを読んだのだろう。
康くんは気遣われることを嫌がる節がある。

「飲みたいの。ほら、早くギムレットちょうだい」

「……わかったよ」

ギムレットが飲みたいのは嘘ではなかった。
康くんのギムレットはおいしいのだ。例え渋々つくったのだとしても。

「はい、どうぞ」

「ありがとう、康くん」

ステムに指が触れると、談笑する声と扉の開く音がした。
秋風が足の甲を撫でる。

「いらっしゃいませ」

康くんと波多野さんが同時に言い、その視線の先には四、五人のスーツ姿の男たちがいた。
素人目でもわかる仕立てのいいスーツに、ハイブランドのビジネスバッグ。
男たちはみな、自信に満ちた精悍な面立ちだった。

隣でへらへらするこの男より、成功者然とした、こういった男たちの方がいまのわたしにはきつい。
なにを言われなくても勝手に惨めな気持ちになる。

社会と関わっていない自分を、負け犬に成り下がってしまった自分を、感じずにはいられない。
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