とことわのその ― 獣と絡まり蔦が這い ―【加筆修正版更新中】
波多野さんにアテンドされた男たちは奥の席に足を進めた。
その中に見覚えのある顔を見つける。

マンションで会うときよりも、その顔は引き締まっていた。
途端に躰が硬直し、息をのむ。

「由紀ちゃん、どうしたの? 乾杯しようよ」

「あ、はい」

かんぱーいと適当に言い、グラスに口をつけた。
邑木さんの気配を背中で強く感じる。


やっぱり、帰ってしまえばよかった。


康くんも波多野さんも、邑木さんとわたしのことを知っている。
それでも二人は自然に邑木さんに挨拶したけれど、わたしはそんなふうにうまく出来ない。


くたくたのパスタにされたあの夜から、顔を合わせるのははじめてだった。


今までわたしは、ここでどんなふうに邑木さんと接していた?

目を合わせて軽く会釈するくらいだった気がするけれど、こんばんは。お仕事帰りですか? と訊くことだってあった。
ひーくんが邑木さんを気に入らないと言い出して、もともと少なかった会話を減らしただけだ。

だけどもう、ひーくんとは別れていて、気にする必要はどこにもない。

それならどうしたらいい?
目を合わせないのもおかしい。

ごくり、と唾を飲んだ。
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