とことわのその ― 獣と絡まり蔦が這い ―【加筆修正版更新中】
『旨い肉、食いに行こう』


『旨い水炊き、食いに行こう』


『旨い……なにか、由紀ちゃんが食べたいもの、食いに行こう』



邑木さんはそうやって旨いなにかを餌にして、わたしを食事へと誘い出した。

「なにか、由紀ちゃんが食べたいもの」というざっくりした誘いには、「イタリアンが食べたいです」と返し、わたしは邑木さんを有名ファミレスチェーン店へと連れていった。
邑木さんは十代の男の子のようにお腹を抱えて笑い、やっぱり笑いのツボが浅いな、と思った。


マンションのキッチンに並んで、一緒に料理することもあった。
そうしていれば、ひーくんのアパートで料理をしたときのことが、嫌でも頭をよぎった。

あの頃はなにも疑わずに、家庭的な面をさりげなくアピールしようと、つくり置きをしていったり、つくり慣れているかのように振る舞った。

いま思えば、なんて滑稽だろう。

ひどく短絡的で、ひどく純粋だった。
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