とことわのその ― 獣と絡まり蔦が這い ―【加筆修正版更新中】
そうやってひーくんを思い出して動機がひどくなったときは、邑木さんに隠れてこっそりと一錠を喉に流し込んだ。
眠気は襲ってくるものの、一時的な助けにはなった。
小粒のわりによく働いてくれる。


他愛ない話をしながらお腹いっぱい食べて、飲んで、ソファーで、ベッドで。
わたしはくたくたになるまで舌と指でとろかされた。


ブランケットに(くる)まって息を整えていると、邑木さんは決まってわたしの耳のつけ根に鼻先を摺り寄せる。

どうしてそんなことするんですか。
そう訊くと、君の香りがするから、と背後から抱きすくめながら囁かれた。


やっぱり、あの(ひと)はどうかしている。

そして、わたしも。


「由紀、なにニヤニヤしてんだよ。邑木さんからなんかきたのか?」

スマートフォンから顔を上げると、康くんがカウンター越しにニヤニヤしていた。
わたしをからかう材料を見つけて楽しむ、悪い笑顔。

週の半ばである水曜日は比較的にお客さんも少ないので、お店も康くんもゆったりとしている。
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