とことわのその ― 獣と絡まり蔦が這い ―【加筆修正版更新中】
「そういえば前にさ、邑木さん、めずらしく何人かでここに来たじゃん。
あのとき、なんで邑木さんも由紀も、お互いに声かけなかったわけ?」

「ああ。邑木さん、職場の人と一緒だったから。わたしに声かけづらかったみたい」

「ふうん? あの(ひと)、そういうの気にするタイプなんだ」

息を吐くように康くんに嘘をついてしまった。
「あとで愉しいから」なんて口にするのは、わたしには抵抗がある。

あの(ひと)はよく言えたものだ。


恥じらって言葉を紡ぐことも、躊躇って舌を這わすことも、あの(ひと)にはない。
たっぷりの余裕と自信で触れてくる。


迷いがなさ過ぎて、わたしだけがいつも戸惑う。

「ゆーきちゃんっ」

足音を忍ばせてやってきたもる子ちゃんに背中をポンと押され、思わずひゃっと声を上げた。
昔と変わらない向日葵のように真っすぐな笑顔。
もる子ちゃんらしい登場だった。

「久しぶりだね、由紀ちゃんも康も。康、波多野さんとまだ別れてないの?」

「別れてねえわ」

「なんだ、残念」

もる子ちゃんがわたしの隣に座ると、奥のテーブルを片していた波多野さんが戻ってきた。
二人のやり取りが聞こえていたのか、くすくす笑っている。
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