とことわのその ― 獣と絡まり蔦が這い ―【加筆修正版更新中】


 ――帰りたいです、さっさと。


 吐き捨てるように告げると、邑木さんはわずかに微笑み、わたしを家まで送ると言い出した。どんなに悪態をついてもこの(ひと)がフェミニストを崩すことはないのだと悟った。

 どうかしている。あの(ひと)も、あの(ひと)と寝たわたしも、どうかしている。

「お会計をお待ちの、101番の方――」

 受付けからのアナウンスに、瞼がぱっと開いた。会計をすませ、発行されたクリニックのカードと領収書を受け取り、隣接された薬局へ向かう。

 メンタルクリニックがどんなところか、ここへ来るまでは身構えていた。

 どんな患者がいて、どんな空気が漂っているのか。受付けでどんな目を向けられ、どんな質問をされるのか。

 もし叫んだり、暴れたりしている人がいたらどうしたらいいのか――なんて考えてしまうのは偏見だろうか。

 偏見という言葉はひどく曖昧だ。なにを基準にして偏っている、とみなすのだろう。
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