とことわのその ― 獣と絡まり蔦が這い ―【加筆修正版更新中】





 実家暮らしだと言うと、人はたいてい「いいね」と言う。

 一人暮らしのように生活にお金が消えていかないし、仕事が終わって家に帰れば、家族とあたたかい食事が出迎えてくれる。休みの日に何回も洗濯機を回す必要もない――おそらく、そんな認識だろう。

 わたしの家の場合、その認識は間違っていなくて、だけどそれと引き換えにすり減っていくものもあって。

 嫁にいくまでは家を出ることは許さない、というのが我が家のルールだった。

 それなら、嫁にいかなかった場合はどうなるのだろう。

 わたしは一生、このままここにいるのだろうか。

「由紀。クリニック、どうだった? 場所はすぐにわかった? 先生はなんて? お薬なんかはもらったの? やっぱり、お母さんも一緒に行けばよかったわ」

 やっぱり、一緒に行かなくてよかった。

 洗面所でうがいをしているわたしのところまでわざわざやって来て、母は矢継ぎ早に訊いた。

 わたしの口はたちまち重くなり、少しでも雑音が欲しくて、もう一度手洗いをしながら答えた。
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