とことわのその ― 獣と絡まり蔦が這い ―【加筆修正版更新中】
 壁一枚分の隔たりがあっても、母たちの会話はじゅうぶん過ぎるほどよく聞こえた。

「それにしても困ったわねえ。あなた達の結婚式までには由紀が定職に就いてないと、よくないわよねえ。そちらのご両親がどう思うことか。姉がそうだと、妹の美紀(みき)の印象まで下がっちゃうでしょう?」

「そんなことないですよ、お義母さん。それにうちの家族、みんな美紀ちゃんが大好きですから」

「由紀ったら急に会社を辞めて。浮いた話のひとつもないし。わたしがあの子の年のときには、もうあの子を産んでたっていうのに」

「またその話? 大丈夫、大丈夫。あたしがそのぶん赤ちゃんいっぱい産むから」

「美紀ちゃん、お義母さんの前でそういう話は」

「だあって。あたし、三人は欲しいもん。お家だって広いから、部屋はじゅうぶんあるし。早くお家、完成しないかなあ」

「あなた達のために新居まで用意してくれるなんて、素敵なご両親よね。美紀はいい結婚ができたわね」

「ふふっ。あたしがお姉ちゃんの運までもらっちゃったみたいで悪いなあ」
< 23 / 187 >

この作品をシェア

pagetop