とことわのその ― 獣と絡まり蔦が這い ―【加筆修正版更新中】
「よかった。由紀ちゃんが来てくれて」

邑木さんはいやらしく唇の端を上げた。
悔しい気もするけれど、もう、どうでもいい。
いろいろ、どうでもいい。
ずず、と氷いっぱいのアイスコーヒーをストローで吸い上げた。

「電話、かけてきてくれると思わなかった」

「いつの間にバッグに連絡先なんて入れたんですか」

「君が寝てるときに」

「……勝手にバッグに触ったんですね」

少しムッとして返すと

「でも、来てくれた」

また唇の端を上げられた。

そういえば、ひーくんは邑木さんのこういう表情が嫌いだと言っていた。
いけ好かない、なんだか嫌な感じだと。
ひーくんがそういうことを言うのはめずらしく、わたしはふうんと頷きながらも、少し驚いていた。

わたしはその嫌な顔を、これから何度こうして近くで見るだろう。

「そうだ。ベッドのマットレス、少しやわらかいものに換えたけど気に入らなかったら教えて」

「マットレス?」

「この前、マットレスが硬いって言ってたから」

「言ってないですよ?」

「寝言で言ってた」

「嘘」

「本当」
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