とことわのその ― 獣と絡まり蔦が這い ―【加筆修正版更新中】
いつもと違う気怠さが、腰骨にじんわりと残る。
硬すぎるいまいちなベッドに背中が落ち着かないけれど、ひたりと肌に吸いつくシーツはたおやかでそう悪くもない。
問題はこの露骨な香り。髪の毛先を嗅いでみると、案の定あの男のスパイシーで野性的な香りが鼻腔を突いた。顔を顰めて軽く舌打ちする。
帰ったらバスルームに直行して、すぐに洗濯しよう。母にあれこれ詮索されたら厄介だ。友達と飲み明かして終電を逃したという設定上、今日一日は頭が痛い振りでもしておくのが無難だろう。あなたって子は、と大袈裟なため息をつかれるだろうけど、嘘がばれるよりはずっといい。
実家暮らしのデメリットをひしひしと感じていると、扉の軋む音がした。清潔な香りがするりと滑り込む。
「ごめん。起こしたか」
「……いえ、べつに」
ホテルでもないのに、風呂上がりにバスローブを着る人間をはじめて見た。だけどこの男にTシャツやハーフパンツも似合わないだろう。
「きみもシャワー浴びる? 朝食……って時間でもないな。なにか軽食でも頼もうか」
「いいです。すぐに帰ります」
「なんだ。昨日とは打って変わってドライだな」
邑木さんは左の眉を下げ、息を吐くように笑みをこぼした。嫌みっぽい笑い方は癖か、わざとか。