とことわのその ― 獣と絡まり蔦が這い ―【加筆修正版更新中】





 いつもと違う気怠さが、腰骨にじんわりと残る。

 硬すぎるいまいちなベッドに背中が落ち着かないけれど、ひたりと肌に吸いつくシーツはたおやかでそう悪くもない。

 問題はこの露骨な香り。髪の毛先を嗅いでみると、案の定あの(ひと)のスパイシーで野性的な香りが鼻腔を突いた。顔を(しか)めて軽く舌打ちする。

 帰ったらバスルームに直行して、すぐに洗濯しよう。母にあれこれ詮索されたら厄介だ。友達と飲み明かして終電を逃したという設定上、今日一日は頭が痛い振りでもしておくのが無難だろう。あなたって子は、と大袈裟なため息をつかれるだろうけど、嘘がばれるよりはずっといい。

 実家暮らしのデメリットをひしひしと感じていると、扉の軋む音がした。清潔な香りがするりと滑り込む。

「ごめん。起こしたか」

「……いえ、べつに」

 ホテルでもないのに、風呂上がりにバスローブを着る人間をはじめて見た。だけどこの(ひと)にTシャツやハーフパンツも似合わないだろう。

「きみもシャワー浴びる? 朝食……って時間でもないな。なにか軽食でも頼もうか」

「いいです。すぐに帰ります」

「なんだ。昨日とは打って変わってドライだな」

 邑木(むらき)さんは左の眉を下げ、息を吐くように笑みをこぼした。嫌みっぽい笑い方は癖か、わざとか。
< 4 / 187 >

この作品をシェア

pagetop