とことわのその ― 獣と絡まり蔦が這い ―【加筆修正版更新中】
『貰いたいものは、貰ってるから』
わざわざ封筒の隅にメッセージまで書かれていた。
いったい、いつ封筒に気づいて、いつ書いたのだろう。
貰いたいものって、貰ってるって、なにを。
ますますあの男がわからなくなる。
うららかに流れる水のような文字に、腹が立った。
あんなにきれいな字を書く男を、わたしは知らなかった。
「ニートの彼女から金を受け取る男なんていないだろ。
邑木さんは金持ってるだろうし、かっこいいし」
かっこいいことと、お金を受け取らないことは関係ないだろう。
康くんはいつも適当にしゃべる。
そしてそれはとても楽で、気を遣わなくて、わたしはついしゃべり過ぎてしまう。
母よりも妹よりも女友達よりも、康くんが一緒にいて気を抜ける。
幼い頃は仲よくやっていたはずの妹との間に不和が生じたのは、いつからだったろう。
「康くんって、邑木さんみたいな男は好み?」
深い意味はなかったけれど、これは失礼な質問だったかな、と口にしてから気づいた。
だけど康くんは気にする素振りもなく答えた。