とことわのその ― 獣と絡まり蔦が這い ―【加筆修正版更新中】
暮らしはじめてから数日後、マンションにやって来た邑木さんは映画でも観ようかと言い、わたしに映画を選ばせた。
わたしは動画配信サイトのトップに表示された、ヨーロッパのどこかの国の映画を適当に選んだ。

なにが言いたいのかよくわからない、雰囲気を楽しむような映画。
ソファーで膝を抱えて映画を流し観るわたしを、あの(ひと)は腕をのばして何度か撫でた。
まるで猫を撫でるように。

それは家猫を撫でるというより、野良猫を撫でるような、距離を測るような、そんな撫で方だった。


――由紀ちゃんの髪、きれい。
染めてないのか。
へえ、いいダークブラウンだな。
え、俺の髪? 違うよ、パーマじゃない。
パーマじゃなくて地毛で、のびると少しウェーブがかるだけ。


かっこつけてパーマをゆるくかけているのだと思っていた。
まさか、わたしをからかって嘘をついているのだろうか。
そう考えていると


――由紀ちゃん、信じてないだろう。
小さい頃の写真みる?
もっとくるくるで、すごいコンプレックスだった。


勝手に心を読まれた。

邑木さんはわたしが思っていたよりずっとおしゃべりで、だけど気配は静かで。
どっちつかずな、ぬるま湯みたいな(ひと)だった。
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