とことわのその ― 獣と絡まり蔦が這い ―【加筆修正版更新中】
外はもうとっぷりと黒く染まっていて、わたしの太腿の内側の痕はすっかり消えていた。

なにをされるだろう。

いつされるだろう。

平静を装っていたけれど、内心ではひどく動揺していた。
どうにでもなれと思いながらも、わたしはまだ完全には振り切れていなかった。

うるさい心臓を、何度も引っ張りだしたくなった。

あれ。ひーくんとのはじめてのときよりも緊張していないか?
そう気づけば、苛立ちが募った。


やるなら一思いに、さっさとやってくれ。


断頭台に向かう罪人のように祈る。

それなのに邑木さんは、映画が終わればあっさりと帰ってしまった。
映画の終わりが(こと)のはじまりかと思っていたわたしは、拍子抜けした。

帰り際なんて



――そうだ。デリバリーのなかに気に入ったものはあった?
また食べたい物があったら教えて。
ああ、マットレスはどうだったかな。
枕も合わないようなら、合うものを買って。
オーダーしてもいいし。



いったい、邑木さんはなにをしに来たのだろう。
二回目の来訪も、三回目の来訪も同じだった。

二、三時間ほどの滞在。
少し触れて、距離を測って、わたしの様子を訊く。

それだけだった。
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