とことわのその ― 獣と絡まり蔦が這い ―【加筆修正版更新中】
「したら教えろよ。官能小説並みの赤裸々描写で」

「やだよ」

「なんでだよ」

「ぜったい嫌」

「けち」

聞いて楽しいのか。
わたしはやけ酒ならぬ、やけラムレーズンアイスをして冷えたお腹をさすりながらバーを出た。


この十日間、まともに外に出ていなかった。
秋の香りを孕んだ夜気(やき)が、躰から熱を奪っていく。

ハンドクリームを買わなくちゃ。
こっくりした夜用に、べたつかない日中用も。
化粧水や乳液も、もっと保湿力のあるものにしよう。

肉体まで枯渇したら、自分が今よりもっと荒んでいく気がした。


慣れない道筋に、借り物のような景色。
静まり返った、ただいまを言う相手のいない部屋。

一人暮らしをしていたら、こういうものなのか。

一人が嫌いというわけではなかった。
むしろ人と群れる方が苦手で、友達から旅行に誘われても、いつもやんわりと断ってきた。

だけど、そういうわたしでも感じるものはある。


邑木さんの替えてくれたマットレスはまだ躰には馴染まず、キングサイズのベッドはわたしに一人を突きつけた。
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