とことわのその ― 獣と絡まり蔦が這い ―【加筆修正版更新中】



『旨い寿司、食いに行こう』



邑木さんはくだけたメッセージでわたしを呼び出した。

旨い、寿司。

おそらくあの(ひと)の言う旨い寿司とは、回らないお寿司。
漂白したような真っ白い調理服を着た職人さんが、渋い顔して握るお寿司。

回っているお寿司しか知らないわたしは、フォーマルなお寿司屋さんのマナーなんて知らない。
服だって靴だってバッグだって、普段使いのものばかりで、たいしたものをここに持ってきていない。
いや、そもそもなにを着て行ったらいいのかわからないし、実家にある服だってそんな立派なものはない。


邑木さんは待ち合わせの時間と場所を指定してきた。
買い物に行けるほど、時間の余裕はない。


『着ていく服がわかりませんし、買いに行く時間もありません。
申し訳ないですけど、今日は無理です。別の日にしてください。』


わたしは正直に返信した。
急に誘ってくる方だって悪い。

すると邑木さんは、とにかく来て、と返してきた。
なぜか待ち合わせ時間を早くされ、待ち合わせ場所が変えられている。

なんて強引な。なんて自分勝手な。

それでも立場的にわたしは強く出れず、いつもよりも丁寧に、いつもより大人っぽくなるようにメイクをして、急いで待ち合わせ場所へと向かった。
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