とことわのその ― 獣と絡まり蔦が這い ―【加筆修正版更新中】
「佐倉さんの私服って、こういう感じなんだあ。あたし、そういうの似合わないからうらやましい」

ひらひらしたパステルカラーの花柄の服を着ている松井由香利に、シンプルで飾りっ気のない臙脂色(えんじいろ)のロングワンピースをうらやましいと言われても違和感しか抱けない。
褒めることが女子界の(おきて)なのだろうか。

わたしもなにか、松井由香利を褒めなくてはいけないような気がしてくる。

「佐倉さん、これからどこか行くの?」

「あ、うん……」

「デート?」

「あ、や、うん」

イエスでもノーでもない返事に松井由香利が笑う。

「佐倉さんの彼氏ってどんな人? 年上?」

「年上、だけど」

「あー、なんかそんな感じ。佐倉さんって年下とはぜったいにつき合わなさそう。なにしてる人なの?」

「松井さんの。松井さんの彼氏は元気?」

松井由香利の彼氏のことなんて、どうでもよかった。
だけど自分のことをあれこれ詮索されるよりはいい。先回りして訊いた。

すると松井由香利は眉を(ひそ)め、あんなのもうとっくに別れたし、と呟いた。

訊くんじゃなかった。

余計なことを訊いてごめん、と謝ろうか。
けれどそうやって謝るのも、なんだか違う気がする。

まごついていると、松井由香利は急に勝ち誇るように微笑んだ。
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