とことわのその ― 獣と絡まり蔦が這い ―【加筆修正版更新中】
 苛立ちを流し込むように炭酸水を呷ると、食道に痺れが走り、胃袋がきりりと冷えた。わずかに肩が上がる。空きっ腹にはよくなかったな、と後悔した。

「あたたかいもの、なにか持ってこようか。コーヒーか紅茶か」

「いいです」

「遠慮することないよ」

「いえ、ほんとうにけっこうです」

 抑揚なく答えると、邑木さんはなにか考えるような顔をして口を開いた。

「きみ、彼氏となにかあったのか」

「彼氏と、なにか……」

 阿呆みたいに復唱してしまった。そうすることしかできなかった。

「あんなふうに俺を誘ってきた理由は、なに」

 どうしてそんなことを。どうしてそんなことを、この(ひと)は訊くんだろう。

 この(ひと)からは他人への興味や関心を感じない。つめたいわけではないけれど、見えない境界線をいつも感じていた。

 明日になればわたしとの夜だって忘れるだろう。いや、一時間後には。

 口を噤んだままでいると、邑木さんがベッドに腰をかけた。スプリングが弾み、すっかり緩くなってしまったブラジャーの隙間にペットボトルの水滴がぽたりと落ちる。

 胸をなぞるように流れる細い水脈を感じながら、わたしはすでに乾きはじめた唇を開いた。
< 6 / 187 >

この作品をシェア

pagetop