とことわのその ― 獣と絡まり蔦が這い ―【加筆修正版更新中】
あの(ひと)の世話をした覚えはないけれど、わたしも同じようにお辞儀をし返した。
いったい、この美人は

「邑木さんのお知り合い、ですか」

「婚約者です」

「こん、やくしゃ……」

瞬間、なにも聞こえなくなった。
五感がうまく機能しない。

「佐倉さん、もしかして体調悪いですか? 顔色、あまりよくないみたいですけど」

顔を覗き込まれ、(ひる)む。
邑木さんの婚約者に、ましてやこんな美人に会うことなんて想定していなかった。

「だ、大丈夫です。平気です」

「そうですか? じゃあ早速、服を選びに行きましょう。
三十分ほどしかないので急ぎ足になってしまいますけど」

「……服?」

「もしかして、邑木から聞いていませんか」

ぶんぶんと首を横に振った。
なにを考えているんだ、あの男。

「ゆっくりお話ししたいところですけど、時間もないので歩きながら話しましょう」

「は、はい……」
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