とことわのその ― 獣と絡まり蔦が這い ―【加筆修正版更新中】
百貨店に入ると、玲子さんはわたしの服を上から下まで、あっという間に選んだ。

てきぱきと、くるくると店内を回り、迷いなく服や靴を手にしていく。
そのどれもがわたしに合っていた。

繊細な黒いレースのワンピースはしっくりと躰に馴染み、ヌードカラーのハイヒールはわたしのスタイルをいつもよりずっときれいに見せてくれた。

玲子さんのセンスがいいのだろう。
彼女自身、身に着けているものがすべて彼女に合っている。

華美でもなく、地味でもない、質のよさそうなワンピース。
きらりとひかる華奢なブレスレットが揺れる細い腕。

その左手の薬指には、まだ指輪はなかった。



これ、まだ使っていないものだから。
そう言って玲子さんはわたしの唇にボルドーの口紅を滑らせた。
化粧室の鏡に映るわたしは普段よりもずっと大人で、上等な女のように見えた。

実際のところは好きでもない(ひと)のマンションで暮らす、ただのニートだけれど。

「よかった。間に合って」

静かに微笑む玲子さんからは花の香りがした。
女のわたしでも、どきっとしてしまうような魅力的な笑顔。
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