とことわのその ― 獣と絡まり蔦が這い ―【加筆修正版更新中】
玲子さんの美しさは女優やモデルのような華や圧のある美しさというより、バレリーナのような儚いけれど芯のある、それでいて柔軟さもあるような、そんな美しさだ。
わたしより少し年上のように見えるけれど、実際は何才だろう。
落ち着いた(さま)や、醸し出される余裕はもっと年上のように感じる。

それにしても、どうして邑木さんはこの(ひと)を好きにならないのだろう。

わたしが男なら、間違いなく好きになってしまう。
おそらく一瞬で。

やっぱりあの(ひと)は、どうかしている。



百貨店を出ると、ほんの三十分の間に空は表情を変えていた。
グラデーションは弱まり、ほとんどが群青で染まっている。
玲子さんとわたしは一緒にタクシーまで向かった。

自分も同じ方向に行くから、と玲子さんは言ったけれど、おそらくそれは嘘で、わたしを気遣ってくれたのだろう。
美人な上に親切。
非の打ち所がない。

「本当は、佐倉さんの着ていたワンピースや靴で行っても問題はなかったんですけどね」

「え、そうなんですか」

「ええ、香水をつけて行ったりするのはよくないですけど、服装については厳しいドレスコードがあるわけではないから」
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