とことわのその ― 獣と絡まり蔦が這い ―【加筆修正版更新中】
この女は、きっとそういうお店に慣れているのだろう。
ちょっとした動作一つをとっても、高級なお店が似合うような、そういう品がある。
どこへ連れて行っても恥ずかしくない女性。
「お寿司を出されたらネタが新鮮なうちに、すぐに食べる。
お醤油をつけるときはシャリではなく、ネタの先に少しつける」
「え?」
突然話し出した玲子さんに驚いて顔を見ると、ふふっと微笑まれた。
やわらかに、花が香る。
「他にもありますけど、あまり考えないで大丈夫ですよ。
困っていたら邑木がフォローするでしょうし。佐倉さんはただおいしく食べて、楽しめばいいんです。
いまの時期なら、いくらや鰤なんかがおいしいでしょうね」
「そう、なんですか……」
「それにしても、佐倉さんはきれいですね。お世辞ではなく、そう思います。
服を選ぶの、とても楽しかったです」
「いえ、あの、わたしなんて」
「邑木のこと、よろしくお願いします」
いったい、これはなんだろう。
松井由香利との会話のような疲労感や苛立ちはないけれど、こんなにやさしくされては、どうしていいのかわからない。
罵倒されても困るけれど、やさしくされるよりはその方が楽な気すらする。
微かな秋風だけが音もなく吹き抜けて、花の香りがふたたび鼻先を掠めた。
玲子さんのピンクベージュの唇の端が、きっちりと左右対称に上がる。
こちらこそ、よろしくお願いします。
わたしは自分でもよくわからない返事をしてタクシーに乗った。
ちょっとした動作一つをとっても、高級なお店が似合うような、そういう品がある。
どこへ連れて行っても恥ずかしくない女性。
「お寿司を出されたらネタが新鮮なうちに、すぐに食べる。
お醤油をつけるときはシャリではなく、ネタの先に少しつける」
「え?」
突然話し出した玲子さんに驚いて顔を見ると、ふふっと微笑まれた。
やわらかに、花が香る。
「他にもありますけど、あまり考えないで大丈夫ですよ。
困っていたら邑木がフォローするでしょうし。佐倉さんはただおいしく食べて、楽しめばいいんです。
いまの時期なら、いくらや鰤なんかがおいしいでしょうね」
「そう、なんですか……」
「それにしても、佐倉さんはきれいですね。お世辞ではなく、そう思います。
服を選ぶの、とても楽しかったです」
「いえ、あの、わたしなんて」
「邑木のこと、よろしくお願いします」
いったい、これはなんだろう。
松井由香利との会話のような疲労感や苛立ちはないけれど、こんなにやさしくされては、どうしていいのかわからない。
罵倒されても困るけれど、やさしくされるよりはその方が楽な気すらする。
微かな秋風だけが音もなく吹き抜けて、花の香りがふたたび鼻先を掠めた。
玲子さんのピンクベージュの唇の端が、きっちりと左右対称に上がる。
こちらこそ、よろしくお願いします。
わたしは自分でもよくわからない返事をしてタクシーに乗った。