とことわのその ― 獣と絡まり蔦が這い ―【加筆修正版更新中】



「今日は来てくれてよかった。ありがとう」

「断るって選択肢、あったんですか」

そう訊くと、邑木さんはそっと微笑んだ。

「シートベルト締めて。この時間だと少し混むかもな」

お寿司を食べ終え、ぎらぎらした車に乗り込んだ。
電車で帰ると言っても、マンションまで送ると言って聞かなかった。
街灯のぶつかり合う都会の夜は明るい。

「なにが一番、おいしかった?」

「……雲丹(うに)が」

「同じ。俺も雲丹が一番だったな」

生臭くてずっと苦手だと思っていた雲丹は、思わず目を見張るくらいおいしかった。

口に入れた途端に広がる磯の香りと、舌の上でとろけるようなまろやかさ。

雲丹って、こんなに甘いんだ。
咀嚼しながらこっそり感動していた。

ふ、と漏れるような息が聞こえて邑木さんの方を見ると、大きな目を細め、子どもを見るような眼差しをわたしに向けていた。

人生ではじめて雲丹がおいしいと思った瞬間、隣にいたのは邑木さんだった。
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