とことわのその ― 獣と絡まり蔦が這い ―【加筆修正版更新中】
「お寿司、いくらだったんですか。払います」
「女の子が男に訊くことじゃないな」
「そういうフェミニスト気取りやめてください」
「寿司、好きじゃなかった?」
「好き、ですけど」
ふと、ひーくんに、ボーナスが入ったら回らないお寿司に連れていって、とねだったことを思い出した。
カウンターの向こう側では康くんと波多野さんが笑っていて、ひーくんは、「いったん今日のところは持ち帰らせていただきまして、検討の上ご回答させていただきます」と神妙な顔をつくった。
結局、ボーナスが入る前に別れてしまったけれど。
わたしはさらに深く俯いた。
ぐちゃぐちゃになっていく顔を、ほんの少しでも邑木さんに視界に入れたくはなかった。
「由紀ちゃん、そんな体勢だと酔っちゃうし危ないよ」
「邑木さんは前だけ見て運転してください」
確かにそうだな、と車が止まったタイミングで頭を撫でられた。
今日も猫を撫でるように撫でるその手に、噛みついてやりたくなる。
だけど、そんなことをして事故でも起きて、邑木さんと一緒に死んだりはしたくない。
一緒に夜のニュースに名前を並べられたくはない。
ぐっと堪えた。
「女の子が男に訊くことじゃないな」
「そういうフェミニスト気取りやめてください」
「寿司、好きじゃなかった?」
「好き、ですけど」
ふと、ひーくんに、ボーナスが入ったら回らないお寿司に連れていって、とねだったことを思い出した。
カウンターの向こう側では康くんと波多野さんが笑っていて、ひーくんは、「いったん今日のところは持ち帰らせていただきまして、検討の上ご回答させていただきます」と神妙な顔をつくった。
結局、ボーナスが入る前に別れてしまったけれど。
わたしはさらに深く俯いた。
ぐちゃぐちゃになっていく顔を、ほんの少しでも邑木さんに視界に入れたくはなかった。
「由紀ちゃん、そんな体勢だと酔っちゃうし危ないよ」
「邑木さんは前だけ見て運転してください」
確かにそうだな、と車が止まったタイミングで頭を撫でられた。
今日も猫を撫でるように撫でるその手に、噛みついてやりたくなる。
だけど、そんなことをして事故でも起きて、邑木さんと一緒に死んだりはしたくない。
一緒に夜のニュースに名前を並べられたくはない。
ぐっと堪えた。