とことわのその ― 獣と絡まり蔦が這い ―【加筆修正版更新中】
「ちょっとでかい仕事が終わったから、旨いものが食べたかったんだよ。
由紀ちゃんをこっちの都合につき合わせて、ごめん」

「……ちょっとでかいって日本語、おかしくないですか」

「自分ででかい仕事って言うのもなんだかなあ、と思って」

そういえば邑木さんがマンションに来たとき、目の下に少し(くま)があった。
まちのパンやさんにとっての、ちょっとでかい仕事ってなんだろう。

「どんな仕事だったんですか」

むくりと起き上がって訊いた。
邑木さんの言うとおり、少しだけ酔ってしまった。

「そうだな。えらそうで怖そうなおじさん達と戦ったり」

「戦ったり?」

「まあ、いろいろと」

「いろいろですか」

「うん、いろいろです」

邑木さんは声を荒げて脅すような戦い方ではなく、痛いところをズバッと一撃で突くような、そういう戦い方をしそう。
それか、じわじわと相手を追い詰めて、自滅へと追い込むような戦い方。

仕事中、この(ひと)はどんな顔をするのだろう。
ぐらつく頭で想像してみる。
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