とことわのその ― 獣と絡まり蔦が這い ―【加筆修正版更新中】
邑木さんの言っていることを受け入れられなくて、わたしははじき出すように声を荒げる。

「邑木さんがわたしのなにを知ってるの? 知ったようなこと、言わないでください」

康くんのバーでたまに顔を合わせ、少し挨拶するくらいの、そんな関係だった。

顔見知り以上、友達未満。
邑木さんにわたしのことをどうこう言われるのは、通りすがりの人にブスと言われるのと同じくらい意味がわからないし、納得が出来ない。

「よく知ってるとは言えないけど、君のことを知りたいと思ってるからこうして話してる」

「そういう話はいいです」

「信号、もうすぐ変わるからちゃんとシートに背中つけて。また酔っちゃうよ」


本当に、伝わらない。


邑木さんを責めることは簡単で、だけどつき合うことを承諾したのはわたしで。
ひーくんとつき合うことだって、仕事のことだって、選択してきたのはわたしだった。

それならきっと、元凶は。
それを招いたのは。

「ちょっと、由紀ちゃん」

邑木さんの声を振り切って、わたしは車を飛び出した。

静かでうるさい夜の街を駆け抜けたハイヒールは、康くんのところへ着いた頃にはすっかり傷だらけになっていた。
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