好きになっちゃ、だめでしたか?
「ほら、理系クラスって男子多いし、ね? きっと“春樹君”よりもいい人いるって」

「うん、分かってる」

 言葉では分かっていても、心はなかなか前に進んでくれない。

 いつだってそうだった。

 理解しようと努力はしている。

 もう、春樹君がわたしの近くにいないことも、もし会えたとしてもきっとわたしのことなんて忘れているということも。

 だけど、どうしても期待してしまう。

 いつか会うことができるんじゃないかって。

 春樹君もまた、わたしと同じ気持ちでいてくれているんじゃないかって。

「まあ、今度ゆっくり話聞かせてね?」

「うん、そんなに思い出多くないけどね、カフェかどっかで」

「おっけー」

 窓の外を見た。

 大きな雲が一つ浮いていて、その中に埋まりたいと思った。

 あの日の記憶がなくなっちゃえばいいのに。

 あの日のことを、単なる夢だと思えたら。あれは現実なんかじゃなくて、寝ているときに見る夢だったならば。

 でも、そう思うには記憶が鮮明すぎて。

 春樹君の笑顔が脳裏に強く焼き付いていて。

 夢と思うことも、今更忘れることも無理だった。
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