好きになっちゃ、だめでしたか?
「もともとはこっちに住んでいたのですが、つい最近までは神奈川にいたので知り合いが全然いません。よろしければ、仲良くしてください」

 わたしの目を見ながら。

 彼は言う。

 整った顔で、奇麗な目でじっと見つめられたら心臓の鼓動がおかしいことになってしまう。

 よろしければ、仲良くしてください。

 自分だけに語り掛けている?

 って、そんなことはない。

 彼が座った後も、心臓の鼓動の速さは相変わらずで、自分の自己紹介の番が来るまで顔を上げることができなかった。








「よーし、留衣はなに食べたい?」

「えーとね、わたしは」

 わたしたちの最寄りの駅の周辺は結構栄えていて、カフェとかレストランが多い。

 どこにしようかな、と空腹具合と今日の気分を考えながら街を見ているとき、ある人の姿が目に入って来る。

「え」

「留衣?」

「あ、あの人」

「あの人って……って、神山春樹じゃん! もう、留衣あの人って。クラスメートだよ? あの人じゃかわいそうじゃん。あ、そうだ。友達欲しいって言ってたし、誘う?」

 一華は彼に近付こうとする。

 そんな一華の腕を掴んで、彼女の歩行を邪魔する。

「ちょ、ちょっと。あれはきっと、男友達が欲しいって意味だって。それに、わたしは、一華と2人がいいな? ね、リラックスできないし」

「ええ、そう? そんなに、わたしと2人がいいの?」

「そ、そう! 一華との時間邪魔されたくない!」

「もう、可愛いんだから」

 一華は彼から目を離してわたしの方を向くと、頭を思いきり撫でて来た。

 朝から今まで整っていた髪形は、一華の手によって一瞬でぐちゃぐちゃになってしまった。
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