好きになっちゃ、だめでしたか?
 金曜日の昼。

 一華が職員室に呼ばれて1人待っていた時、自分に近付いてくる影が視界に入って来る。

 心臓が動く。

 まるで、耳のすぐ隣で鼓動しているかのように、大きく鳴る。

 直接話してくれればいい、そうは思っていたけれど、いざその時が来るかもしれないと思うと、目が見開く。

「あの、上野さん」

「は、はい」

 紛れもなく神山君の声。

 急な緊張のせいで声が裏返る。

「あのさ、今時間ある?」

 廊下を見ると、一華の姿はまだない。

「ちょっとだけなら」

「じゃあ、ちょっとだけいいかな」

 神山君は廊下に出た。

 私も彼を追って廊下に出ると、神山君は人気の少ない校舎を目指して歩き始めた。

 うう、やっぱり何か怒らせるようなことをしてしまったのかもしれない。

 神山君は、ただただ黙って前を向いて歩く。

 立ち止まってしまおうか。

 考えたけれど、そのあとのことのほうが怖くてできなかった。

 完全に人の姿が消えた廊下で、神山君は止まった。

「ねえ、上野さん」

「は、はい」

「僕と付き合ってください。好きです」

 神山君の赤い顔。

 白うさぎのように真っ白な肌が、今はほんのりと赤色に染められていて、いつもわたしを見ている目は潤んでいる。

「って、え!? す、好き? わたしを?」

「うん、上野さんのことが好きです」

「え、ど、どうして?」

「覚えていないかもしれないけど、僕が引っ越す前、留衣ちゃんと一緒に何度か遊んだんだ。その時彼女に一目惚れして。ずっと会えないかなって思ってた。上野さんが昨日僕と同じ駅にいて、確信したんだ。名前も同じだし。あのときの女の子はきっと上野さんだって」
 
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