双子を極秘出産したら、エリート外科医の容赦ない溺愛に包まれました
「葵!」

呼び止められてドキンとする。

この場所で自分を下の名で呼ぶ人物はひとりだけだ。

聞き覚えのある低い声に、恐る恐る振り返ると、案の定、晃介だった。

街灯が照らす駐車場をこちらに向かってやってくる。

そして一枚のカードを差し出した。

「受付に落ちてたぞ」

晴馬の保険証だ。

葵は「あ」と声を漏らした。
突然の再会に動揺して、落としてしまっていたようだ。

「あ、ありがとうございます……」

でも受け取ろうとそれを掴み、首を傾げる。晃介が強く掴んでいて離さなかったからだ。

「あの……?」

戸惑い視線を彼に移した時。

「結婚、してるわけじゃないんだな?」

不意打ちのような確認に、ドキンとする。
射抜くように晃介がこちらを見つめている。

彼の視線が痛かった。

保険証には葵の名前が載っている。当然苗字も彼と付き合っていた時のままなのだから、結婚していないだろうことは予想がつく。

「葵、聞きたいことが……」

「あ、ありがとうございました!」
 
少し大きな声でそう言って、保険証を強く引き、鞄にしまう。急いで車に乗り込んだ。

「葵……! 待てよ!」

ドアを閉め、エンジンをかけると、彼は車が発進できる位置まで下がる。

ライトに浮かぶ悔しそうな表情の彼を見ないようにして、葵は車を発進させた。
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