双子を極秘出産したら、エリート外科医の容赦ない溺愛に包まれました
近い距離で病人の看護をする看護師は、ストーカーやセクハラなどの被害に遭うことも少なくない。

この手の話は仲間内でよく聞くから、憤る気持ちを抑えられないのだろう。

辻からの忠告に、葵は素直に頷いた。

「次に来られたら相談してみます」

別れを告げて病院を出る。夕暮れの街を家目指して早足で歩きながら、不安な気持ちになっていた。

さっき話に出た患者は、しきりに葵の自宅を知りたがっている。

今のところバレてはいないようだが、今日『谷本さんは徒歩通勤なんですよね』と口走っていたのが気持ち悪かった。

その患者の自宅も病院からそう離れていないからそもそも近所に住んでいるということになる。

なんとなく後ろを振り返りながら葵は家を目指した。

今日は晃介が来られない日だということが心細かった。

明日は朝から来られると言っていたけどそれまでは子供たちと自分だけだ。

自宅に着いた頃にはもう薄暗くなっていた。

鍵を出そうと葵が鞄を探っていると。
「谷本さん」と、声をかけられる。

振り返り、葵はそのまま凍りついた。

ロッカールームで話していた件の患者が立っている。
「やっぱり、谷本さんだ。おかえりなさい」

そう言ってにっこりと笑う彼に、葵はいつものように笑い返すことができなかった。こんなところで会うなんて、どう考えても不自然すぎる。

「あれ? びっくりしてます? ふふふ、驚かしてしまったならすみません。そこのスーパーのあたりで見かけたんで、もしかしたらそうかなと思って、ついてきちゃったんですよ。谷本さんって、病院からこんなに近くに住んでるんですね。ご近所さんだ」
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