双子を極秘出産したら、エリート外科医の容赦ない溺愛に包まれました
大介が目の前のコーヒーをひと口飲んで、高梨が出ていったドアに視線を送った。

「彼は、元は白河病院(うち)にいた人間だ。ちょっとしたことがあって今はこの病院にいるが、ほとぼりが冷めればまたうちに戻してもいいと思っている。だからこうして、時々会っているんだよ」
 
懲罰的に外へ出したとはいえ、身内には違いないということか。

「存じ上げております」
 
葵が答えると、大介は頷いてカップを置く。そして鋭い視線で葵を見た。

「……で、私が来た用件はわかるな?」
 
晃介とよく似ている低い声での問いかけに、葵は膝に置いた手をギュッと握り答えた。

「はい」
 
取り繕っても無駄だろう。

合意書を交わしてから一度も連絡を取っていなかったのに、このタイミングで現れたのだ。すべてばれているに違いない。
 
大介が忌々し気に舌打ちをした。

「君は自分がなにをしているのかわかっているのか?」
 
睨まれて、怯みそうになる気持ちを励ましながら葵は頷く。

「はい。……奨学金は、一生かかってもお返しします」
 
その言葉に大介が鼻を鳴らした。

「この病院で勤めながら……か?」

「……はい」
 
なぜ彼が、葵に直接コンタクトを取らずにわざわざ職場に現れたのか、理由は明白だ。ここが自分の影響力のある病院だと見せつけるためだろう。
 
二年半前とやり方はまったく変わっていないというわけだ。

「たとえ、ここを辞めさせられたとしても、どんな仕事をしてでも必ずお返しします」
 
膝に置いた手をギュッと握って、葵ははっきりとした声で言った。
 
二年半ぶりに会った白河大介は、以前と変わらず威圧的な空気をまとっている。彼の一存で、葵は四百万円の借金を負い、せっかく慣れた職場を追われるかもしれないのだ。怖くないはずがない。
 
だけどもう逃げないと決めたのだ。
 
晃介と子供たちと生きていくと決意した。もう脅しには屈しない。
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