双子を極秘出産したら、エリート外科医の容赦ない溺愛に包まれました
葵はその足ですぐに職場を去るように言われ、同僚や先輩に別れを告げることも許されなかった。

そして晃介には【もう愛情はなくなったから別れてほしい】とだけメッセージを入れて、ほとんど逃げるようにしてこの町を去ったのだ。

葵は息を吐いて、眠るふたりの息子たちに視線を戻した。

妊娠していることに気がついたのは地元に戻ってからだった。

当然、晃介に伝えることはできなかった。大介に脅されたからといっても、メールひとつで彼から逃げるというひどい別れ方をしたのだから。

ふたりを生むことに迷いがなかったといえば嘘になる。父親のいない子、ましてや双子を、まだ経済的に自立できていない状態でひとりで育てる自信はなかった。

でも突然終わりを迎えた彼への想いが、葵を突き動かした。

——おそらくもう自分は、彼以外の男性を愛することはないだろう。ならば実らなかった彼への愛の証を残したい。

その思いと生まれてきた息子たちへの愛情だけを頼りに、なんとかここまでやってきた。

目を閉じると二年半ぶりに目にした晃介の姿が脳裏に浮かんだ。

ブルーの医療ユニホームを着た彼の姿に、葵の胸は高鳴った。それは別れる前と少しも変わらない反応で、一生懸命彼を忘れようとした二年半の努力が無駄だったのだと思い知らされるようだった。

遠く新聞配達のバイクの音を聞いてから、ようやく葵は眠りについた。
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