双子を極秘出産したら、エリート外科医の容赦ない溺愛に包まれました
その言葉と、"言って聞かせた"というわりには、まったく納得した様子もなく葵を睨みつける女性の視線に、なんとなく葵は状況を把握しはじめる。
 
葵のことを『不始末』あるいは『若気の至り』と表現する彼らの意図するところは……。

「谷本くん、こちらは山里厚生労働大臣政務官とご息女、美雪さん、晃介の婚約者だ」

「婚約者……?」

思わず葵は呟いた。なにかしらそういう位置付けの女性だとは思ったものの、まさかそこまでとは思わなかった。
 
唖然とする葵に、向かいに座る美雪が馬鹿にしたような笑みを浮かべる。
 
大介が、葵の問いかけに対する答えを口にする。

「そうだ、婚約者だ。先日顔合わせも済ませた。君は、晃介からなにも聞かされていないのか?」

侮蔑の響きを帯びた大介からの問いかけに、葵は答えることができなかった。
 
当然葵は晃介からなにも聞いていない。しかも話を聞いていないどころか、彼からそのような素振りも一切感じなかった。
 
まさか、という思いが頭に浮かぶ。
 
でもその考えを葵はすぐに打ち消した。彼が自分に言わなかったのは、その必要がないと判断したからだ。

彼を、信じなくては。
 
沈黙する葵を一瞥して、大介がまた山里の方に向き直る。

「山里さん、谷本君にはまだ詳細を話しておりませんで……」
 
山里が頷き、葵に向かって口を開いた。

「私が面会を希望したのだよ」
 
そしてそのまま、ことの経緯を説明する。

「晃介君と美雪の縁談を正式に進めるにあたって、晃介君のことを少し調べさせてもらったんだ。そしたら君と子供たちの存在がわかったというわけだよ。もちろん晃介君は日本の脳外科の分野を牽引する優秀な医師だから、女のひとりやふたりはいるだろうと思っていた。だから君の存在自体は些末なことだ」
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