双子を極秘出産したら、エリート外科医の容赦ない溺愛に包まれました
そう言って山里は、目の前のコーヒーをひと口飲み、喉を潤してからまた話しはじめた。

「だが子供がいるとなればやっかいだ。別れてそれで終わりとはいかないからね。もちろん、この縁談には晃介君も前向きだと聞いているから、彼は、君について自分の手で始末をつけるつもりなのだろう。本来なら私がでしゃばることではない」
 
そこで言葉を切って、隣の美雪をチラリと見る。

彼女は軽蔑するようにこちらを睨んでいる。

「……だがこの通り、娘が不安がっていてね。君も人の親ならわかるだろう。私は娘には幸せな結婚をしてもらいたいんだ。取り除ける汚れならば、この手で取り除いておきたい」

葵のことを"汚れ"と表現して、山里は鞄から書類を出し、葵から読める向きにセンターテーブルに置いた。

「君と娘夫婦との関わりについての合意書だ。条件は悪くないはずだ」
 
合意書というタイトルの書類には、多額の養育費に加えて、葵への手切金、都内の一等地にマンションを用意するとある。

ただし、親子の面会は一切行わないことというのが条件だ。

「晃介君は今大切な時期だから、日本に帰ってきてから、彼の了承を得ることにしよう。内容的には問題はないはずだし」
 
勝手な言葉を口にして、山里が万年筆を葵に向かって差し出した。サインをしろということだろう。

それをジッと見つめて、葵はしばらく沈黙する。そして大きく息を吸ってから口を開いた。

「子供たちのことを私ひとりでは決められません。晃介さんと相談します」
 
その返答に、山里が顔を歪めた。

「この条件は今だけだ。持ち帰りは許さない」

「……それでも、サインはできません」
 
きっぱりと葵は言う。
 
二年半前と同じ誤ちは繰り返さないと心の中で唱えながら。
< 144 / 188 >

この作品をシェア

pagetop