双子を極秘出産したら、エリート外科医の容赦ない溺愛に包まれました
——かわいそう……。
そうかもしれない。

少なくとも事実だけを見て、冷静に考えたらそういう結論になるのだろう。
 
葵の胸が、晃介に対する不信感でいっぱいになっていく。

彼が、葵の知らない間に見合いをしていたということだけを考えても、不信を抱くには十分だ。
 
私、騙されていたの……?

——でもそこで。

『俺を、信じてくれ』
 
唐突に彼の声を聞いたような気がして、ハッとする。
 
真っ黒に染まりつちある葵の心に、ぽとりとひとつ、透明な雫が落ちたような心地がした。

その雫は、ゆっくりと広がっていく。
 
葵の髪を愛おし気に梳かす長い指。
 
双子をいっぺんに抱き上げる逞しい腕。
 
頭の中心がぐらぐらと揺れるような熱いキス。
 
俺を信じてくれと言った時の真っ直ぐな視線と、強い声音。
 
そうだ、なにがあっても迷わないと葵は彼に約束した。
 
彼を信じると決めたのだ。
 
二度と同じ誤ちは繰り返さない。

「ここまで言うのは私も本意ではなかったが、これで君もわかっただろう? 身のほどをわきまえなくてはならない時期にきているということが」
 
ため息まじりに山里が言う。
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