双子を極秘出産したら、エリート外科医の容赦ない溺愛に包まれました
一気に言って、目を閉じる。
晃介が葵の言葉を否定した。

「君は悪くない!」

金網がガシャンと音を立てた。

「父が汚い手を使ったんだ……! 葵はなにも悪くない。……謝るのは俺の方だろう? なにも知らなくて……」
 
悔しそうに端正な顔を歪める。葵は首を横に振った。

「晃介には言わない約束だったもの。仕方がないわ」

「でも、君は父のせいでつらい経験をしたんだ。妊娠も出産もひとりで乗り越えなくてはならなかった。父がしたことで……」
 
その言葉に葵は再び首を横に振る。

「それは違うの、晃介」
 
そうではないという結論が、葵の中にすでにある。しかもそれこそが本当に葵が彼に懺悔しなくてはならないことなのだ。

「私がひとりであの子たちを生まなくてはいけなかったのも、あなたに会えなくて寂しかったのも、……それからあなたと子供たちの大切な時間を奪ったのも……理事長だけのせいじゃない」
 
訝しむように目を細める晃介を真っ直ぐに見て、葵はずっと胸の中にしまい込んでいた後悔を口にする。

「あの時、理事長は私に言ったの。『晃介を信じてみるか?』って。……そうよね、奨学金のことも仕事のこともあなたに相談すればよかったのよ。そしたらもしかしたら、今とは違う未来だったかもしれないのに。……でも私はそうしなかった。理事長が怖くて、黙って合意書にサインをした。私、私……あなたを愛してると言いながら、あなたを信じられなかった。私が、子供たちとあなたの時間を奪ったのよ! ……ごめんなさい……!」
 
胸に中でずっと渦巻いていたつらい思いを吐き出して、葵は両手で顔を覆う。溢れる涙と嗚咽を止めることができなかった。

「ごめんなさい……!」
 
繰り返しその言葉を口にする葵に、晃介は沈黙する。
 
どうして再会してからも葵がこのことを晃介に言えなかったのか、なににこだわっていたのか、十分に伝わったようだ。
 
愛する人の裏切りに、衝撃を受けてもいるのだろう。
 
彼が語った、灰色の二年半。それは一番近くにいる人物によってもたらされたのだという事実を受け止め、消化している。
< 156 / 188 >

この作品をシェア

pagetop