双子を極秘出産したら、エリート外科医の容赦ない溺愛に包まれました
胸ぐらを掴まれ、やや苦し気にしながら晃介が反論する。

「後ろ盾がすべてではないでしょう。うちには、優秀な理事たちがいる。俺も、これからは理事として病院経営に携わっていきます。どうしてそれで納得できないのですか?」
 
心底不思議だという様子で眉を寄せている。
 
彼の疑問はもっともだ。
 
そもそも晃介が病院経営に明るくないのは仕方がない。

三十五歳の若さで日本のトップ脳外科医と言われるまでになるためには、臨床経験を優先させることが必要不可欠だったのだから。
 
病院経営については、これから学べばいい。
 
でも大介はその質問には答えずに、晃介を睨みつけたままだった。

 ……顔色は真っ青だ。
 
その様子に、葵はあることに気がついてハッとする。
『時間がない』という大介の言葉を思い出した。

「……もしかして」
 
葵が呟いた時だった。
 
大介が息子のシャツを掴んだ手を離し、よろめくように一歩下がる。

葵は反射的に床を蹴った。

走り出し、倒れそうになる大介を支えた。

「理事長! ……やっぱり、具合が悪いんですね?」
 
そのまま床に座らせて、彼のそばに自分のコートを脱いで広げた。

「横になってください」
 
大介が頭を抱え「うう」とうめいて素直に従った。
 
突然の出来事に、一瞬動けなくなっていた晃介が、我に返り大介のそばにかがみ込む。
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