双子を極秘出産したら、エリート外科医の容赦ない溺愛に包まれました
ひと言"そうだ"と言えばいい。

それですべてが終わり、また静かで孤独な日々に戻る。

昨日と今日の出来事は不可抗力なのだから合意書に違反したとはいえないだろう。

でも……。

唇を噛み、ベビーカーの双子を見ると澄んだ瞳が不思議そうに自分を見つめていた。

もし葵がそうすれば、今この瞬間が彼らにとって実父を目にする最後の機会となるだろう。

そこで自分は嘘をつくのだ。
あなたたちは親子ではない、と。

もちろん幼過ぎて彼らの記憶には残らないだろうけれど……。

いつまでも答えない葵に、晃介が声を和らげる。

「葵……」

とそこで、マンションの住人が通りかかり口を閉じた。

住人は、訝しむようにチラチラとこちらを見ながら通り過ぎていく。

背の高い目立つ容姿の男性と双子のベビーカーを押した女が深刻そうに話をしているのだから、いったいなにをしているのだと不思議に思っているのだろう。

ここへは引っ越してきたばかりでまだ知り合いはほとんどいない。

でも近所から奇異な目で見られるのは避けたかった。

職場も保育園も徒歩圏内だ。

かといって、すぐに彼を追い返すうまい言い訳も思いつかなかった。

「……中に入ってください」

ため息をついて、葵は鞄から鍵を出した。
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