双子を極秘出産したら、エリート外科医の容赦ない溺愛に包まれました
「晴馬、ちょっと傷を見せてくれ。……うん、綺麗に治りそうだ」
 
晃介が椅子に座らせた晴馬のおでこの傷を確認して満足そうに呟いた。

「晴馬の傷、綺麗に縫ってくれてありがとう」

カレーのスプーンを引き出しから出しながら、葵は彼に言った。

昨夜は本当に一瞬目を離した隙に、晴馬は走り出しテーブルに激突した。

真っ赤な血を見た瞬間は生きた心地がしなかった。

周囲にからはよく"母親が看護師だと安心だ"などと言われるが、本当のところそうとも限らないと実感した出来事だった。

血は見慣れていても自分の子供のものとなると……。

気が動転して診療所に電話をする時も何度番号を押し間違えたことか。

「晃介がいてくれてよかった。今日の先生も綺麗な縫い目だっておっしゃってたし」

再会してしまったことはともかくとして、晴馬のことのみを考えたら、幸運だった。

「いや……。晴馬、泣かなかったし、暴れなかったもんな、えらかったぞ」

晃介が優しく言って大きな手で晴馬の頭をなでる。

そして今度はそれを不思議そうに見つめてる悠馬に向かって微笑んだ。

「本当にそっくりだなぁ。傷がなかったら見分けがつかないよ」

そんな三人を見るうちに、鼻の奥がツンとして、葵の視界がじわりとにじむ。

なにごともなければ、もしかしたらこの光景はあたりまえだったのかもしれないのだ。
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