双子を極秘出産したら、エリート外科医の容赦ない溺愛に包まれました
「葵……あの時俺は、会わずに別れてしまったからまだ納得できていないんだ。どうして俺は振られたんだ? なにがダメだった? 理由を聞かせてほしい」

別れた時の行動と今の葵の反応を、ちぐはぐに感じているのだろう。

でもその問いかけに、葵は答えることができない。

そしてそれでは彼が納得できない当然だ。直前までふたりは、幸せそのものだったのだから。

本当は、きちんと会って別れる方がいいのだということはわかっていた。

でもそれはどうしてもできなかったのだ。

彼の目を見て"あなたを愛していない"と嘘をつける自信はあの頃の葵にはなかった。

今だって……。

「葵、おしえてくれ。君の口からはっきりと聞きたいんだ」

晃介からの問いかけと真っ直ぐな彼の視線から逃れるように目を伏せて唇を噛む。

口を開いたら真逆の言葉が出てしまいそうだった。

重くて長い沈黙の後、晃介がため息をついた。

「……わかった。言わなくていい」

そして葵の唇に、親指でそっと触れた。

「そんな風に噛むな、唇が切れる。言えないならもう無理には聞かないから」

どこまでも優しい彼の言葉がつらかった。裏切り者と罵られた方がどんなにかましだろう。

頬と唇に感じる温もりに身を委ねたくなる衝動を、葵は必死でやり過ごした。

「君につらい思いはさせたくない。それは今も変わらない」

晃介が手を離し、眉を寄せた。

「だけど子供たちのことは別だ。これからはあの子たちの父親として、君たち親子を支える。……それは、譲れない」

慌てて葵は首を横に振った。

「そんな……。そんなこと、してもらうわけにはいかないわ」

「葵、俺たちのことと、子供たちのことは別次元の話だと言っただろう? あの子たちは、自分の父親が誰なのかを知り、その愛情と支援を受ける権利がある」

理性的で現実的な意見だった。
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