双子を極秘出産したら、エリート外科医の容赦ない溺愛に包まれました
もう好きではなくなったから別れてほしいというメッセージだけを残して。

裏切られたのだ、ひどい女だったと、いくら自分に言い聞かせても彼女を恨む気持ちが心のどこからも湧いてこないことも、晃介を苦しめた。

メールひとつで別れを告げて仕事も辞めて姿を消す。
 
それが晃介の知る彼女からは考えられない行動だったからだ。
晃介との関係は抜きにしても、晃介が知る限り彼女は仕事への情熱に満ちていた。

なにかよからぬことに巻き込まれたのではないだろうかと心配になり、看護師長に確認したくらいだ。

"正式な退職届が出ている、退職は彼女の意思に間違いない、地元へ帰ったと聞いている"という回答で一度は納得したつもりだったけれど……。

——あの別れは、本当に葵の意思だったのか?

昨夜の彼女の様子は、晃介に再び疑念を抱かせるには十分だった。

冷たい態度を取りながら、こらえきれずに見せた涙と、血が滲むほど強く噛んだ唇、引っ越しを繰り返したはずなのに置いてあった自分の服。

晃介には、言えないなにかを抱えてるような……。

晃介はため息をついて、窓の外へ目をやった。遠くスカイツリーが見えるここからの眺めを彼女は気に入っていた。

『スカイツリーを見て喜ぶなんて、田舎者って思ってるでしょ』

そう言って無邪気に笑う彼女が、誰よりも愛おしかった。
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