双子を極秘出産したら、エリート外科医の容赦ない溺愛に包まれました
少し痩せた細い肩、苦悩に満ちた姿を見ているのはつらかった。

帰り際に呟いた消え入りそうな『ごめんなさい』の言葉が胸を刺した。

すぐにでも振り返り抱きしめて"つらいことがあるのなら言ってくれ、俺がすべてを解決する"と叫びたい衝動にかられたが、奥歯を噛み締めてなんとかそれをやり過ごした。

もうすでに十分つらそうな彼女を、これ以上追い詰めたくなかったからだ。

あまり強く言いすぎて、また姿を消されてしまうのも怖かった。

首を振り目を閉じると、脳裏に夢中でカレーを食べていた晴馬と悠馬の姿が浮かぶ。

それとともに今まで経験したことのない温かな思いが胸の中に広がった。

たったひとりで双子を生むと決めた葵。彼女のその決断を、晃介は生涯感謝し続けるだろう。
 
彼らが自分の子だと確信した瞬間、モノクロの世界に再び色がついた。

愛する人と自分との間にできた、なにものにも代えがたい尊いふたつの命が、これからの人生を照らしてくれる。

彼らさえいれば、たとえ葵の心が戻らなかったとしても、自分はもう二度と生きる意味を見失わずに済むだろう。

病院から少し離れた場所にあるこのマンションは葵と付き合うようになってから買ったものだ。

ふたりの関係を職場に知られることを嫌がった彼女が、気兼ねなく来られるように。

かつてふたりが愛し合った部屋。

思い出のつまったこの場所で、スカイツリーを見つめながら晃介は確信する。

不可解なことだらけだとしても、今自分がやるべきことはひとつだと。

——葵を支え、双子に愛情を注ぐ。持てる力のすべてをかけて。

それだけだ。
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