双子を極秘出産したら、エリート外科医の容赦ない溺愛に包まれました
「でも、一年半で辞めている……。いえ、彼女はすごくやる気のある子でしたから、よく覚えてるんです。辞めたと聞いて意外だった」

取り繕うようにそう言うと、看護師長が頷いた。

「あの時も先生、そうおっしゃっておられましたよね。私も同じでした。飲み込みも早いし、患者さんからの評判もよかったのに」

「理由は、わからないんですか?」

 尋ねると彼女は難しい顔で頷いた。

「直接会っていないんです。ただ退職届が出されたと外科部長から聞いただけで」

「……奨学金は、返済したんでしょうか」

三年経たずに辞めれば、四百万円もの奨学金を一括で返済する義務が生じる。

「さぁ? 私はそこまでは……」

確かに看護師長に経理上のことまではわからないだろう。もう一度お礼を言うと彼女は部屋を出ていった。

ひとりになった部屋で、資料を睨みながら晃介は考えを巡らせる。

葵が付属の看護学校出身者だということは知っていた。でも奨学金をもらっていたことは初耳だった。

三年勤めれば消える類のものなのだから、隠していたというほどのことではないだろう。でもそれがありながら三年を経たずして退職したという点が引っかかった。

うまくいっていた職場を四百万円もの借金を背負ってでも、去らなくてはならなかった理由とは? 
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