双子を極秘出産したら、エリート外科医の容赦ない溺愛に包まれました
看護学校時代、自宅で勉強をする際にノートを声に出して読みながら部屋を歩き回って暗記をしたくせが抜けず、やむなく人目を避けておさらいしていたのである。

そこへある日、現れたのが晃介だった。

『へえ、ここもう利用してるのは俺くらいだと思ってたけど』

もちろん葵はすぐにその場を立ち去ろうとした。

多忙な彼にとって休憩時間は貴重だ。それなのに近くでぶつぶつやられてはたまらないだろう。

『せ、先生……? 私、別のところに……』

でもそれを彼は止めた。

『いいよ、続けて。君にとっても必要な時間なんだろう?』

そう言って穏やかに微笑む彼に、葵の胸はドキンと跳ねた。

それ以来、休憩時間が重なる時は、そこで一緒の時間を過ごすようになったのだ。

葵のぶつぶつを、彼はベンチに座り聞くともなく聞きながらサンドウィッチを食べる。

時折、ぶつぶつに対する有益なアドバイスをくれることもあった。

そして別れ際には必ず『頑張って』と励ましの言葉をくれる。その彼に、葵はあっというまに恋に落ちた。

とはいえ所詮はそれだけのことだ。
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