双子を極秘出産したら、エリート外科医の容赦ない溺愛に包まれました
「谷本さん」

名を呼ばれて、過去を思い出していた葵は急に現実に引き戻される。

さっきの看護師が診察室のドアからこちらをのぞいていた。

「終わりましたよ」

「あ、はい」

悠馬を抱いて葵が再び診察台へ入ると、晴馬は診察台にちょこんと座っていた。

真新しいガーゼを頭に貼ってはいるものの、もう泣いてはいなかった。

「えらかったのよー。痛み止めのジェルを塗ってから麻酔したとはいえ、泣かなかったんだから」

看護師の言葉に晃介も同意した。

「強かったな、びっくりしたぞ」

晴馬の頭をなでて言う。その姿に葵の胸がズキンとなった。

医師と小さい患者のよくある光景だが、葵にとってはそうではない。

「麻酔が切れたら少し痛がるかも知れません。明日、近くの外科を受診してください。抜糸もそちらの病院で。紹介状を書きますので……」

テキパキと話す晃介を葵は直視できなかった。落ち着いた低い声もあの頃となにも変わっていない。

そしてひと通りの説明が終わったところで部屋を出る。

「ありがとうございました」

「お大事に」

受付で紹介状を受け取って診療所を出る。
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