双子を極秘出産したら、エリート外科医の容赦ない溺愛に包まれました
「アクセサリーなんて、子供たちがいたら着けられないし。服だって汚されるからいい物は着られないのよ。バッグは子供たちのものがたくさん入るリュックじゃないといけないし……」

「でも持ってる分にはかまわないだろう? べつに腐るもんじゃないし……」

とそこで、彼はなにかに気がついて足を止める。そしてしばらく考えてから「そうだ、葵。ちょっと付き合ってくれる?」と言って家電売場へ入っていった。

『付き合って』という言葉と、アクセサリーショップでもブランドショップでもない店に安心して葵は素直についていく。

彼の物を買うのかと思ったのである。

柱の案内板を見ながら彼はずんずん進んでいく。

そして「あった」と言って立ち止まった。

ドライヤー売場だった。

ズラリと並ぶメーカー一押しの新製品と得意そうに振り返った彼の表情にハメられたと葵は思う。

てっきりパソコンかなにか探しているのだと思ったのに。

彼は、葵がくせ毛を気にしてヘアケアにこだわりを持っていること、さらにはそれが高じて、もはや趣味の領域だということを知っている。

ドライヤーなら欲しがると思ったのだろう。

「へぇ、意外とたくさん種類があるんだな」

わざとらしくそんなことを言いながら、その中のひとつを手に取っている。

「晃介……。私ドライヤーもいらないよ」

少し離れた場所に立ち止まったまま葵は言った。

本音を言えば見てみたい。高性能のドライヤーは葵の中で欲しい物リスト第一位だからだ。

でもそんなお金があるならば子供たちのために貯金するべきだと思い我慢しているのだ。

今家にあるドライヤーは、激安ショップで買ったお世辞にもいいものとはいえないが、壊れていないからまだまだ使える。買い換える必要はない。

ずらりと並ぶ新製品の誘惑に、負けてしまわないように葵は目を逸らす。

でも。

「葵、見てみろよ。これ、風がヘアケアするんだって。トリートメントいらずって書いてある」
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